COLUMN ・ 2026-05-04
ホームページに「駅前です」と書いていませんか
権 成俊
ホームページに「駅前です」と書いていませんか
不動産屋のホームページの相談を受けると、いまだに「駅前にあります」と大きく書いてあることがあります。私はそれを見るたびに、少し気の毒な気持ちになります。
書いている方は、何も間違っていない。実際に駅前にあるのだし、昔ならそれは確かに価値だった。けれど、その価値はもう、消費者にとってほとんど意味を持たなくなっているのです。
消費者は、もう駅前を歩いていない
私が大学を出た頃、駒込に住みたいと思った人は、駒込駅で降りて、駅前の不動産屋を訪ねました。土地に不案内なのだから、駅前にあること自体が情報源としての価値だった。
ところが、いまはどうでしょう。家を探す人はまずインターネットを開きます。家賃、広さ、駅からの距離、木造かどうか、オートロックがあるかどうか。条件で絞り込んで、気に入った物件を見つけて、それを扱っている不動産屋に連絡する。物件が先に選ばれて、不動産屋は後から選ばれる。プロセスが、入れ替わったわけです。
ですから、ホームページに「駅前にあります」と書いても、消費者の意思決定には、ほとんど作用しない。むしろ書くべきは「他にはない物件があります」「こういう条件に強いです」という、その不動産屋ならではの情報のはずです。
本屋も同じです。Amazonがあり、電子書籍があり、通販がある時代に、「駅前の本屋です」と書いてもしかたがない。本屋に残っている価値は、本との出会いの場であるとか、その店主の目利きで集めた特集棚であるとか、そういうものに移っている。けれど、そう気づいて発信を変えている本屋は、まだ多くありません。
業界が変わったのではなく、消費プロセスが変わった
私が言いたいのは、不動産業界が変わったとか、書店業界が衰退したとか、そういう話ではありません。インターネットが、消費者の行動プロセスを根本から変えた。その事実に、企業側の発信が追いついていない、という話です。
これはBtoBでも、まったく同じことが起きています。買い手はまずネットで調べる。比較する。問い合わせる前に、もう半分くらい意思決定は済んでいる。その新しい購買プロセスのなかで、買い手がどんな情報を手に入れられるようになったのか、それによって従来の意思決定がどう変わったのか――そこを丁寧に見直すと、必ず新しいニーズが浮かび上がってきます。
新しい行動が生まれれば、そこには必ず新しいニーズが生まれている。「こんなことをやってくれないかな」と思っているのに、誰もまだ提供していない領域がある。それを早く見つけて、商品やサービスとして形にする。私がやってきたのは、結局のところ、そういう仕事です。
ブルーオーシャン戦略を、デジタルでやる
私は自分の考え方を「デジタルブルーオーシャン戦略」と呼んでいます。
もとはチャン・キム氏のブルーオーシャン戦略です。競争の激しいレッドオーシャンではなく、まだ競合のいないブルーオーシャンを早く見つけて、無風のうちにシェアを取りに行こうという考え方。これを「戦略というよりも戦術の束ではないか」と評する人もいて、その指摘もわかります。けれども、戦略であれ戦術であれ、デジタル時代の超競争環境において、これほど実効性のある考え方もありません。
ただ正直に言えば、私はブルーオーシャン戦略を勉強してから真似をしたわけではないのです。長くデジタルマーケティングの仕事をしてきた結果、自分のやっていることがブルーオーシャン戦略と非常に近いことに、後から気づいた。それで、自分の考え方を整理し直す名前として「デジタルブルーオーシャン戦略」を借りて使っているのです。
核は、市場発見と商品サービス開発
デジタルブルーオーシャン戦略の中心にあるのは、市場発見と商品サービス開発の二つです。
市場発見は、地道な調査です。インターネット上のキーワード検索、競合サイトに載っている情報、SNSのソーシャルリスニング、レビューサイトの声。こうしたデジタル上の痕跡から、消費者がいま何を求めているのか、どこに不満を抱えているのかを読み解く。
そこで見えてきたニーズに対して、「こういう商品なら、この人たちはお金を払うのではないか」という仮説を立てる。実際にテストマーケティングして、取引が成立すれば、市場が立ち上がったということです。そのうえで、本格的に事業化していく。これがデジタルブルーオーシャン戦略の手順です。
ブランディングやプロモーションは、その後のプロセスです。多くの会社は逆を行きます。商品サービスはそのままにして、見せ方を変えれば売れるはずだと考える。けれど、それでうまくいくことは、ほとんどありません。先にあるのは市場であり、商品です。見せ方は、その後で初めて意味を持ちます。
自社のホームページを、もう一度見てみてください
最後に一つだけ、お願いがあります。自社のホームページを、消費者の目線で読み直してみてください。
そこに書いてあるのは、消費者がいま欲しがっている情報でしょうか。それとも、自分たちが昔から「これが価値だ」と信じてきたことを、書き続けているだけでしょうか。
「駅前です」と書いていませんか。
もし書いてあったとしたら――それは、まだ手つかずの市場が、すぐ目の前に残っているということでもあります。