COLUMN ・ 2025-10-30
いまこそ、ウェブ制作からウェブ戦略へ
権 成俊
ウェブ制作の現場は、いま大きな転換期を迎えています。
AIの登場により、デザインやコーディング、ライティングといった制作作業はこれまでにない速度で自動化と省力化が進んでいます。制作そのものが「できる」ことは、もはや希少な価値ではなくなりつつあります。その結果、制作単価は下落し、案件は奪い合いに近い状態へと向かっています。
この状況は、ウェブ業界にとって危機であると同時に、役割を問い直す絶好の機会でもあります。
ウェブは「情報発信の手段」ではなく「事業革新のツール」
ウェブコンサルタントとして20年以上、経営者とともに事業変革に取り組む中で実感してきたことは、ウェブは単なる宣伝媒体でも、集客のためだけの装置でもないということです。
現代の消費者は、まずウェブで調べ、比較し、評価を確認し、意思決定を行います。つまり、顧客体験はウェブから始まる時代です。
だからこそ、ウェブは「見栄えを整えた後工程」ではなく、事業の方向性・価値・競争構造を決定づける戦略領域なのです。
制作会社に求められる役割は「上流」へと移動する
私は長年、制作会社やマーケティング支援会社に対し、こう伝えてきました。
「お客様が求めるものに応えるのではなく、お客様の事業にとって本当に価値のある提案をするべきだ。」
経営者の多くは、ウェブやデジタルに関する理解が十分ではありません。そのため、依頼内容は多くの場合「要望ベース」になりがちです。
しかしプロフェッショナルとは、要望に従うだけの存在ではありません。本来、私たちが担うべき役割は、
- 市場と顧客の行動を読み解き、
- 競合と自社の立ち位置を整理し、
- 勝つためのシナリオ(戦略)を設計すること
つまり、上流の支援です。
AIは「上流の参入障壁」を下げた
かつて上流支援は、知識と経験が必要であり、さらに膨大な調査労力を伴いました。それが「難しい」「自分には手が届かない」と感じさせる大きな壁でした。
しかし今、AIを活用することで、
- 市場分析
- ペルソナの行動仮説整理
- 競合のポジショニング比較
- 顧客インサイト探索
これらのプロセスは、以前とは比較にならないほど効率化されています。つまりいま、上流は「重要な領域」であると同時に、「取り組みやすい領域」にもなったのです。
制作は「価値が決まったあと」にある
ウェブ制作は、戦略を形にする最終工程です。
- 誰に届けるのか
- 何を伝えるのか
- なぜ選ばれるのか
- どの体験を提供するのか
この答えが定まらないまま制作に取り掛かると、どれだけ美しく、どれだけ機能的につくっても、成果は生まれません。
価値は、つくる前に決まります。
だからこそ、いま制作会社は「戦略から始める」という役割を強く求められています。
いま、挑むべきは「ウェブ制作」ではなく「ウェブ戦略」
制作市場が縮小する未来は避けられません。しかし、ウェブの価値は縮小していません。むしろ高まっています。
変わるべきは、私たちの立ち位置です。
- つくる人 → 設計する人へ
- 指示を受ける側 → 提案し導く側へ
- 下流の実装 → 上流の価値創造へ
いまこそ、ウェブ制作からウェブ戦略へ。
これは生き残りの選択ではなく、本来クリエイターが持つ力を正しく解放するための選択です。
ウェブを「つくる」ことだけに価値を限定する必要はありません。ウェブは、企業の未来を形づくるための「思考と設計の道具」です。
今こそ、ウェブに関わる私たちは、企業の伴走者として、事業の共創者として、上流から価値を生み出す存在へと進化していく時です。
その第一歩を踏み出す企業と、私はこれからも共に歩んでいきます。