COLUMN ・ 2014-09-07
見積もり哲学
権 成俊
見積もり哲学
ウェブ制作と利益
ismを通じて本格的にウェブ制作会社やウェブコンサルティング会社向けの教育・コンサルティングを行うようになりましたが、じつはウェブプロフェッショナル向けの教育は2005年くらいから細々とやっています。当時はSEOやリスティング広告、アクセス解析などを使って、より高い成果を出すためのノウハウを提供していました。しかし、それだけでは足りないということが分かり、戦略やビジョンなど、より上流まで取り扱うようになりました。
多方面のスキルが上がることで、成果は出やすくなりますし、お客様の満足度も上がります。ところが、実は制作会社さんの経営は必ずしも良くなりません。なぜなら、成果を出そうとすればするほどワークフローが複雑になり、工数が増え、コストが増えるからです。
良く言いますが、貢献と収益は事業の両輪です。どちらかがなければ事業は継続できません。「衣食足りて礼節を知る」というように、まずは自分自身が食べていけないと、社会にとって良い事業に取り組む余裕もありません。
そして、ウェブ制作会社の利益を中心に考えるなら、マーケティングや経営のノウハウを磨くよりも、見積もりを改善することの方がよっぽど簡単で効果的なのです。
利益を増やす「正しい見積もり」とは?
ウェブ制作会社が売り上げを増やすということは、クライアントから見ればコストが増えることです。つまり、クライアントの利益と自社の利益は対立するのです。
この対立を解消する唯一の方法は、成果を出すことです。
利益を得るというのは、クライアントの財布から自社の財布にお金を移すことではありません。クライアントの財布のお金を増やして、その一部を受け取ることです。より高い成果を出すことで、両社が利益を得られるプロジェクトになります。お互いが利益を綱引きするのではなく、一緒に利益を増やすパートナーにならなければ良いプロジェクトにはなりません。
正しい見積もりとは、自社の貢献利益を見積もり、その範囲の中でコストに自社の利益を加算したものを見積もることです。貢献利益以下、コスト以上という幅の中で決定されるものです。
見積もりの承認を得るコツ
見積もりを承認してもらうためのコツは簡単です。クライアントを選ぶことです。
金払いの良いクライアントを選ぶ、という意味ではありません。しっかりと成果が見込め、利益を分け合えるクライアントを選ぶ、ということです。もともと大きな成果が出ないようなら、費用をかけないほうが良いのです。ネットで成果を出すことの難しさを知っていれば、条件を満たすお客様は限られます。
たとえば当社の場合、ご相談から有償ですが、その中でお仕事を受けるのは4社に1社くらいです。当社がお手伝いをしても費用に見合った成果を出せない場合か、いまはそのタイミングではない、という理由でお断りしています。お問い合わせいただく案件の半分以上を受注しているような場合は、正しい金額で受注できていなかったり、効率の悪い仕事をしていることが多いと思います。
しかし、クライアントを選んでいると、仕事は減ってしまいます。そうならないために、クライアントを選べるだけの営業力が必要です。このあたりは自社の戦略につながってきます。
見積もりと交渉
一般的に「見積もり」とは費用の見積もりですが、その裏には成果の見積もりがあり、貢献利益の見積もりがあり、工数(コスト)の見積もりがあります。ワークフロー全体を見通さずして、正しい見積もりはできません。
正しく貢献利益とコストの間で見積もるために、ポイントが2つあります。
段階的に見積もる
ウェブ制作のような場合、どのようなサイトを作るのかが明確に定義されていないのに、サイトリリースまでの工数・コストを洗い出すことはできません。作業内容が明確になった段階で、その範囲の工数・コストを見積もります。そのため、サイトの企画段階・コンテンツ制作段階・サイト制作段階などで、何回かに分けて、次の工数が明らかになった時点で見積もります。
費用>工数>成果の対応を明確にする
「デザイン一式」というような見積もりになっていると、デザインの分量が増えてコストが増えても売り上げが増えず、赤字になります。そうならないように、極力作業を細分化して工数を洗い出し、どのページのデザインがいくら、ということが分かるように見積もります。
さらに、そのデザインに工数を、ひいては費用をかけることによって、さらに成果が上がる、ということの説明が必要です。万一、費用を削減するためにこの工数を削減したら、成果も削減されるということを明示します。
それでも、やはり必要な作業を削っていては十分な成果は実現できません。そのため、作業を削るということは成果を削ることにつながっている、ということを伝えましょう。「このコンテンツを作るのは、特定のユーザーに何を伝えて、CVR(成約率)を向上させるためだ」、というようなことが明確に説明できるようにしましょう。
コストを減らす
利益を増やすためには、売り上げを増やしてコストを減らすことです。しかし、通常、成果を高めるにはコストも増えるのです。つまり、成果を伸ばすこととコストを減らすことはトレードオフの関係にあり、両方を高いレベルで成立させることはできません。あくまでどこでバランスを取るか、ということです。
しかし、実は成果を減らさずにコストだけを減らす方法があります。それは、「成果につながらないコスト」を減らすことです。
たとえば、以下のような作業を減らすことでコストだけを減らすことができます。
- 無料の事前提案
- デザイン案を複数案提出
- クライアントの好みに合わせてデザインを修正する
このような作業はすべて成果には繋がりません。クライアントを納得させるためだけの作業です。無くなっても成果は減りません。
同じように、クライアント側の工数の削減も考えてあげましょう。必要な資料やデータをいただくときにも、極力お手間をかけないように、最悪なくても良いものはそのニュアンスをしっかりと伝える。これが、クライアントに信頼されるディレクションです。
他にも細かな工夫はいろいろありますが、まずは上記のように見積もりの哲学を確立し、それに沿ったワークフローを実現することです。