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デジ革 一般社団法人デジタル経営革新協会
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COLUMN ・ 2026-05-05

答えのない仕事を、AIにやらせる

権 成俊

答えのない仕事を、AIにやらせる

別のコラムで、AI が得意なのは「答えがあること」、苦手なのは「答えがないこと」だと書きました。

それを踏まえて言うと、私たちが戦略指南 AI で取り組んでいるのは、答えがない仕事を、あえて AI にやらせるという、かなり高度なやり方です。

普通に考えれば、それは AI に向かない仕事のはずです。発散して、まとまらないからです。

答えのない仕事は、なぜ発散するのか

経営戦略は、答えがありません。

「どこの市場で勝負するか」「どの顧客を選ぶか」「どんな差別化をするか」「いくらで売るか」。それぞれに正解はなく、組み合わせは無数にあります。条件分岐が膨らみ、思考はどこまでも広がっていきます。

世の中には、URL を読み込ませて分析するタイプの AI 戦略ツールも増えてきました。試してみると分かりますが、たいていは発散します。「こういう見方もできます」「別の分析をするとこう言えます」と、断片的なアドバイスが並ぶだけで、まとまりがない。

それはそれで、参考にはなります。けれども、最終的に判断するのは結局人間です。「どれを選ぶか」「どこに賭けるか」を AI は提示してくれません。

くさびを刺す

私たちが戦略指南 AI で行っているのは、この発散を収束させるための工夫です。

具体的には、AB3C というフレームワークを思考のくさびとして打ち込みます。

  • Benefit ── 顧客が求める価値は何か
  • Advantage ── 競合より選ばれる理由は何か
  • 3C ── Customer・Competitor・Company

この5つの要素に、AI の思考を制限する。「どこから考えてもいい」のではなく、「この5つの観点で順を追って考えてください」と縛りをかけるのです。

縛りをかけると、思考は自ずと収束します。

AB3C は、もともと私が20年以上前から、コンサルタントとデザイナーの間でデザイン指示書として使ってきた整理の枠組みです。それが結果的に、AI の思考を整える「くさび」として、ぴたりとはまった。これは AI 時代以前から準備されていたフレームワークが、AI の進化と出会って花開いた、と表現してよいと思います。

くさびがあるから、答えに近づける

AI に「経営戦略を立ててください」と問うと、出てくるのは「だいたいの会社が言いそうなこと」です。集合知の平均値だからです。

ところが、AB3C のくさびを刺してから、自社の調査データと一緒に問いを投げると、AI の出力は急激に「自社らしい戦略」に近づいていきます。

  • この市場で求められている本質的な価値は何か
  • 競合と比べて選ばれる理由はあるか
  • 顧客像はどう絞り込めるか
  • 競合は誰で、どう動いているか
  • 自社の強みと、それを支える資源は何か

これらを順に整理しながら問うていくと、最後に 戦略メッセージが立ち上がります。Benefit と Advantage を統合した、その会社らしい一言です。

答えのない仕事を、AIにやらせる、ということ

AI を「答えがあること」だけに使う、というのは、安全なアプローチです。多くの会社にとって、それで十分でもあります。

けれども、戦略のような答えのない領域にこそ、AI を踏み込ませる意味があると私は思っています。なぜなら、戦略を考えるという仕事は、これまで限られた人にしかできない高価な作業だったからです。多くの中小企業は、戦略を専門のコンサルタントに依頼することができず、そのまま勘で経営してきました。

AI が AB3C というくさびと組み合わさることで、その状況は変わりつつあります。ここはまた別のコラムで詳しく書きます。

少なくとも、答えのない仕事を AI にやらせるためには、くさびを用意することが必要です。AI に丸投げしないでください。

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